こういうのを書いてみたくなった

「実は昨晩、カタリナの羊が何者かに襲われた――」
 村長はそう語り始めた。
 みな、一様に信じられないといった面持ちだった。
 そりゃ、そうだろう。はっきり言って、近年まれに見る大事件だ。
 噂に上ってないことがそもそもおかしい。
 でも、村長の顔は真剣そのもので、冗談を言ってる雰囲気じゃない。
 そもそも、カタリナの表情が、それを真実だと裏付けている。
「羊が襲われたって…獣が降りてきたとかじゃないの?」
 ヨアヒムがもっともな指摘をする。それほど例があるわけじゃないけど、無いとは言い切れない。
 しかし、村長はかぶりを振って否定した。
「だが…羊小屋には、異変はないようだったぞ?」
 おそらくここに来るまでに、羊小屋の前を通ったのだろう。木こりのトーマスがそう言った。
 予想できていたのだろう、村長は鷹揚にうなずいてからこう答えた。
「うむ、小屋自体はなんら荒らされてはいないようだ」
 よく考えてみれば、それはそうだろう。小屋が荒らされていれば、いくらなんでもみんな気付く。
「そして、それこそが獣ではないという証明だと思う」
「つまり――犯人は、小屋を荒らすことなく羊だけを襲ったってこと?」
 村長の言を受けて、私が聞き返した。まぁ、ほぼ確信に近かったけれど。
「そういうことだ、獣がやったなら、小屋も荒らされているはずだろう」
 人間がやったのでは――という、意見は出てこなかった。
 それならそれで、この村の誰かがやった可能性が高くなるからだろう。
 それに――カタリナの表情を見る限り、相当の惨劇だったんじゃないだろうか。
「あれは――襲われたというより、食べられていたわ…」
 今まで黙っていたカタリナが口を開いた。
 それは、人がやったということを否定するには十分だった。