特に意味も無く…
――人狼が出る。
誰からとも無く広まった噂だった。
誰もが無根拠な単なる噂と片付ける…そう、思っていた。
だから、村人を集めると言う話を聞いたとき、とても意外に思っていた。
「人狼なんているわけないじゃん。みんな大げさだなあ」
村の楽天家が、そんなことを言った。
とはいえ、ここに居る大半は、同じことを思っていたんだろうな…と、私も思う。
「今年は収穫量はイマイチだったけど、質は悪くないよ――」
「僕は小麦のデキが、商売に響くから気になるなぁ」
「おや、旅人さんは東のほうからいらしたんですか」
「えぇ、商人さんは中央から? ここにはよく来るんで?」
結局、現実感の無い召集は、雑談会という状態に落ち着いていた。
集会の場所として選ばれた宿屋の片隅では、お酒を飲んでいる人たちも居る。
集会に呼ばれた一人なのに、女将のおばさんは接客で忙しそうだった。
「ったく、俺たちを集めた張本人が遅刻ってのはどうなんかね?」
「しょうがないんじゃない? 村長さんも忙しいんでしょ」
誰とも無く言ったであろうつぶやきに、私は律儀に反応してやる。
「まぁ、そらそうだろうけどよ――そういや、カタリナのやつも呼ばれてなかったか?」
お酒を飲んでいた、ガラの悪そうな男がそう聞いてくる。
案外、話し相手が居なくて寂しかったのかもしれない。
「私は見てないわね。ひょっとしたら――」
言いかけたときに、ガチャリとドアの開く音がした。
みんなの視線が、ドアに集まる。ドアから髭を蓄えた中年の男性――村長が顔を出した。
「みな、集まっているようだな。いや、遅れてすまなかった」
「村長、カタリナが来ていないようだが…」
「ああ、カタリナなら――」
そう言いかける村長の後ろから、羊飼いの女性が姿を見せる。
はて? なんだか顔色が悪い。快活とはいえないまでも、暗い子ではないのだけれど…
「今日、集まってもらったのは他でもない、人狼の噂の件だ」
みんなが半ば予想していた理由を村長は述べた。
予想しながらも、なぜ噂一つで呼ばれるのかと、いぶかしがる村人に村長は語り始めた。
「実は昨晩、カタリナの羊が何者かに襲われた――」
まったく予想外の事実にその場が凍りついた――