葵日記

 某月某日
 モスコビアの森にて――


 今日も菫の手伝いで森での支援をさせられている。
 なんで、こんなことになったのやら――


 2週間ほど前、菫が突然やってきたかと思えば、開口一番に、こう言って来た。
「ちょっと80まで上げたいから、手伝って欲しいんだが」
 当然面倒くさいので却下だ。が――
「まあ、嫌なら構わないんだけどな?」
 やたら意味深な感じだ。というか、妙に冷めた目でこっちを見ている。
 つーか、こいつがこういう目をしてる時はロクなことを考えてないのが確定だ。
 間違いなく、ものを頼んでる目じゃねえ。例えて言うなら、実験動物を眺めるような――


 嫌な、そうとてつもなく嫌な予感がした。
 予感というか確信だな、食事に何か混ぜるのか、それとも寝ている間に何かするのか。
 とりあえず、シャレで済まない「実験」に思いを馳せてる可能性が大だった。
「ま、まあ、レベルを上げるってなら手伝ってやらんこともないが、なんでまた急に?」
 仕方なくといった風なのは、俺様の最後の自尊心だ。まあ、余裕でお見通しだろうが、気にしてる様子ねえし。
「ん? ああ、やりたいクエストがあるんだが、制限レベルが80なんでね」
 モロククエか……ボロクソに死にまくった記憶しかねえんだが、まあ、褒章もでるしな。
 大体、暇ではあるがそれほど大変なことじゃあない、とっとと上げて開放されるとするかな。
「とりあえず、どこで上げるよ?」
「そうだな……とりあえず、調印にでも行ってみるか。装備的にも大体あるしな」
 近くのポータルもあるし、直ポタも取れるから、それなら俺様も楽が出来ていいな。
 と、いうわけでポタを取り数日をアウドムラ平原で過ごしたわけだが――


「時々物凄く湧いて転がるのがイマイチ気に入らないな。場所を変えるか」
 飽きた――とか、言い出すかとは思ったが、そう来たか。別に少々転がろうとプラスなんだから構わん思うのだが。
「別に変えるのは構わんが、他に候補とかあるのか?」
「そうだな、モスコビアの森が結構美味いと聞く、アクティブ少ないからイカバードも育てられそうだしな」
 イカバード? そういや、そんな鳥も飼ってたな。全然ださねーから忘れてたが。
「って、ちょっと待て確か森に行くのにクエスト要るだろう、お前も俺様もやってねーじゃん」
「? クエストすれば良いだけだろう。そもそも、そのクエの報酬も入ってウッハウハじゃないか」
 ウッハウハってお前……オヤジじゃねえんだから。
「クエストするのはいいが、クエストに必要なアイテムとかどうするんだ?」
「ああ、そこらは沙雪にでも任せよう」
 なんつーか、どこまでも他力本願なやつだ。というか、とにかく全力を見せたがらないやつだなあ。
 沙雪のやつもご愁傷様だが、最近新しい武器が手に入ったとかはしゃいでたから、嬉々として行くかも知れんな。
 集めてる間は俺様も楽できるかと思ったんだが、流石というか速攻集めてきやがった。相変わらず無駄に仕事が速いやつだ。
 そんなこんなで、横暴な国王に極刑にされかける危機に晒されつつも、モスコビアの森に到着。
 それから、数日ここにキャンプを張って過ごしている訳だが――


「うむ、かなり稼げてるな。イカバードも順調に成長しているし」
「そりゃよかったな。俺様もそろそろお役御免か?」
「そうだな、いままでご苦労だった。礼を言う」
 つーか、前々から思ってたんだが、こいつはなんで年下の癖にこんなに態度がでかいんだ。
 敬えとは言わんが、最低限の礼儀というものをだな……いやまあ、俺様も礼儀とか言えた義理じゃないが。
「あー、別に礼とかいいからさっさと上げて来い。俺様もいい加減終わらせてえよ」
「そうだな、もうすぐ"私の"支援は終わりだからな。早くお役御免にしてあげるとしようか」
 ……。
 ん? 今なんか微妙に気になることを言い残していった気がしたんだが。
 聞き返そうにも、速度増加で突っ走っていきやがったから、もう見えねえし。
 なんかこう、もっそいヤな予感がするなおい。




とまあ、森でボーっと突っ立ちながら、戻ってきた菫にひたすら支援だけさせられる葵君の日記帳。
オチとか無いので気にしてはいけません。単に待ってる間暇だからと書き残したものにすぎませんので。